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“Musical comedy: the most glorious words in the English language.”


by zatoumushi
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▼136「アスペクツ オブ ラブ」(再演)▼

★アスペクツ オブ ラブ

@MBS劇場

劇団四季 製作

1998年 8月16日〜 9月20日

再演


【掲載内容】

愛のストーリーテラー 原作者のガーネットについて / 新庄哲夫

アスペクツ オブ ライフ 浅利演出による主題と変奏 / 佐藤友紀

「類型」の中の多彩 ドラマと音楽が一体化した作品 / 小山内伸

恋、芝居と現実の間で 
     『アスペクツ オブ ラブ』を彩る出演者たち / 松島まり乃


【「類型」の中の多彩 ドラマと音楽が一体化した作品】

『アスペクツ オブ ラヴ』は、大ざっぱに言うと男女五人の恋愛のもつれを描いたミュージカルである。若く一途な恋に始まり、大人の付き合い、三角関係、友情、裏切り、親子の情愛、許されぬ恋、死と別れなど、題名が示す通り「愛をめぐるさまざまな局面」が登場する。主人公は、劇の構造においては、冒頭で主題歌を歌うアレックスということになろうが、見る立場によって解釈が分かれてもおかしくない。軸となる恋愛関係も、場面が進むにつれて変わってゆく。
こうした拡散したストーリーであるにもかかわらず、ミュージカル全体からは、緊密に統一された印象を受ける。それを束ねているのは、A・ロイド=ウェバーの音楽である。
スケールの大きな曲こそ少ないが、小品もしくは軽いタッチながらも珠玉のメロディーが、次から次ぎへと繰り出される。その音楽は、さながら万華鏡のようだ。限られた色破片が反射のちょっとした加減によってさまざまな模様をあやなす万華鏡のように、この音楽も、類型的な枠の中にありながら、時の流れと共に移ろってゆく多彩な愛のドラマを鮮やかに描き出している。
「類型的な枠」というのは、次のような特徴があるからだ。
(1)全編を室内楽の調べで統べている。
(2)似た旋律が何曲にも登場する。
(3)多くのミュージカル・ナンバーがリプリーズ(繰り返し)される。
第一の特徴は、この作品に限ったパターンではない。『ジーザス・クライスト=スーパースター』はロック、『オペラ座の怪人』はオペラ風、『サンセット大通り』は映画音楽調と、作品ごとに一変した音楽様式ではない彩るのは、ロイド=ウェバーのお家芸といってよい。『アスペクツ オブ ラヴ』で、室内学的編曲が選ばれているのは、フランスを舞台としたラブ・ロマンスにふさわしいということもあろうが、これは同時に、一本筋の通った骨太のドラマというよりも刻々と変奏してゆくドラマであることを印象づけるものだ。
第二点。一音ずつ下降する旋律で始まる曲がいくつも出てくるのは偶然だろうか。(中略)一音ずつ下がる音階自体はありふれた旋律だとしても、こうも揃うと意図的な音遊びだとしか考えられない。その上に、類型的なイメージを増幅しているのが第三の特徴だ。この作品には、十六のナンバーと、題名のない小曲・断片が四曲ほど含まれているが、そのほとんどが場面を違えて一度ならず反復される。テーマ曲のほか二、三曲を繰り返すミュージカルはままあるが、これほどリプリーズが多い作品は珍しい。
(中略)
このように、ロイド=ウェバーは、設定が共通する場面で、もっぱら同じメロディーを繰り返している。巡りゆく愛のドラマの中に、人物の内面を音楽で織りなしているのだ。むろん、観劇する際に曲の異同を一つ一つ意識はしないだろうが、一度聴いた曲が似たような若しくは対照的な状況で反復されることで、感情の機微が懐かしく立ち上がってくるのを肌で感じることができる。まさに、ドラマと音楽が緻密に一体化した優れたミュージカルなのである。

小山内伸
by zatoumushi | 2008-05-25 23:42 | ▼プログラム▼